挿入がなければ「不貞」ではない?
不貞相手への慰謝料離婚最近,立て続けに何件か「男性器を女性器に挿入した確たる証拠がないので,『挿入がない。したがって,不貞ではない』と言い張られるのではないか?」,「挿入なしの場合,挿入ありの場合と比べて損害は小さく,慰謝料の金額も少なくなるのか?」といったご相談がありました。
一般的な感覚としては,もっともなご懸念かと思います。
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挿入がなければ「不貞」にならない?
- 「挿入がない」,「挿入の証拠がない」という場合であっても,「不貞」が認められることはあり得ます。挿入は「不貞」が認められるための絶対条件ではありません。
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挿入なしの場合,挿入ありの場合と比べて,慰謝料は少なくなる?
- こちらも答えは「NO」です。
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どういった行為があれば「不貞」が認められる?
- 「他の異性と二人きりで会っただけでも裏切り」と考える方もいますが,このレベルであれば,損害賠償が発生する「不貞」とは言えません。
頻繁に二人きりでデートをしている,手をつなぐ,ハグ,キス…となってくると,「不貞」ではありませんが,損害賠償が発生する可能性も0ではありません。
セックス(挿入あり)は,間違いなく「不貞」です。
では,「キス」から「セックス(挿入あり)」に至るまで(?)のあれこれはどうなのか。セックスに類似する行為(手淫,口淫など)や,セックスにあたって生じ得る行為(裸で抱き合う,一緒にお風呂に入るなど)があれば,「不貞」が認められる可能性大と言えます。
損害賠償が発生し,離婚が認められる要件ともなる「不貞」を「セックス(挿入あり)」のみに限定するのは,一般的な感覚としても狭すぎるでしょう。
そしてもうひとつ,「裁判所がどのような証拠に基づいて『不貞』を認定するのか?」という問題も絡んでくるように思います。
裁判所では,「ラブホテルに二人で入った」,「Aさん(女性)が一人で住む部屋にBさん(男性)が入っていき,3時間ほど出てこなかった」といった事実について立証ができれば,性的な関係を持ったことについて直接的な証拠(その現場の写真,動画など)がなくても,「不貞」を認定します。裁判所は,「AさんとBさんがこういった行動(①)をとったのであれば,二人は当然,セックスなど性的な関係(②)を持ったはず」というように考えるので,②について直接の証明ができなくても,①を証明できれば,基本的には②を証明できたことになるのです。
二人の人間が性的な関係を持つ場合,その現場は密室であることが多く,したがって「セックスをしている現場の写真や動画」のように直接的な証拠を入手することは難しい(ほぼ不可能)という事情も,影響しているかもしれません。
このように,裁判所は「二人でラブホテルに入った=不貞あり」といった認定をするので,「ラブホテルの中で実際に何をしていたのか」は問題にしません。したがって,「不貞」の裁判において,「挿入の有無」が争点となることもありません。ご本人にとってはとても重要な問題かもしれませんが,裁判所にとっては,その点を突き詰める必要はないのです。