離婚後に親権者を変えることはできる?
親権者を変更する手続はあります。
しかし、いったん決めた親権者を変更するのは、かなり難しいです。
1 合意があっても、裁判所での手続が必要
親どうしが「親権者を変えよう」と合意している場合でも、「戸籍の窓口で届出をする」という離婚時と同じ方法では、親権者の変更はできません。
家庭裁判所に「親権者変更の調停」を申し立てて、裁判所で「親権者を変更する」という調停を成立させる必要があります。
通常、親権者は子供と同居して養育をしますから、親権者を簡単に変えられるとすると、その度に子供の生活環境は変わり、安定した生活を送ることができません。
また、「親権」という言葉から「親の子供に対する権利」と捉えられることもありますが、親権は「子供のための責務」、「子供のための最善を考え、子供の利益を守る責任」です。
子供の利益や心情をないがしろにして、親の気持ちや都合でやり取りしてよい「権利」ではありません。
合意があってもなお裁判所での手続を必要とするのは、この手続に参加し、裁判所から求められる情報を提供したり、説明をしたりする中で、「親権者を変更する」ことの重要性をきちんと理解してもらう、軽々しく親権者が変更されるような事態を防ぐという目的があります。
2 合意がない場合
非親権者は「自分が親権者となって子供を引き取りたい」と望んでいるが、現在の親権者はこれに応じないという場合も、家庭裁判所に「親権者変更」の調停を申し立てる必要があります。
なお、「調停(=話し合い)」ではなく「審判(=裁判所の判断を求める)」を申し立てることも可能ですが、裁判所が「まずは調停で話し合いをしてください」と調停手続になることが多いです。
離婚時に親権者を決める時は、「どちらの親が親権者となることが、子供にとってよいか?」を考えますが、いったん決めた親権者を変更する際は、「私の方が子供のためによりよい環境を提供できる。私と暮らした方がよい」というだけでは足りません。
「今の親権者には問題がある。だから変えなければならない」と判断してもらう必要があります。
- 子供が虐待されている
- 親権者が子供のために必要なことを行わず、子供が不利益を受けている
- 親権者が再婚して再婚相手との間に子供も生まれ、家庭内で孤立してしまっている
- 子供本人が15歳を超えているか15歳に近い年齢で、親権者との生活に限界を感じ、非親権者である親との生活を強く望んでいる
なお、子供本人が非親権者との同居を望んでいる場合、親権者の同意も、親権者の変更も行わないままに子供を引き取ってしまうと、「誘拐だ」と主張される可能性があります。
特に虐待のおそれがある場合などは、すぐに警察や児童相談所に相談をし、児童相談所で子供を保護してもらった上で、家庭裁判所での手続をとることが考えられます。
3 親権者は変えずに、監護者だけを変える
親権者はそのままに、監護(=子と同居し、日常的な養育を行う)だけを切り離して、非親権者が行うという方法も考えられます。
子供が非親権者との同居を望んでいる場合に、親同士で話し合い、親権者が「親権者の変更は絶対にしないが、非親権者が子供と同居するのは構わない」と言う場合、「一緒に生活できるのであればそれでよい」として、監護者だけを変更することも考えられます。
親権者は変えずに監護者だけを変える場合、家庭裁判所での手続は必要ありません。
「親権者は変えなくてよいので、子供と一緒に住みたい。監護は私にさせて欲しい」と求めても拒まれる場合には、家庭裁判所に「監護者指定の調停」を申し立て、裁判所で話し合うこともできます。
調停で折り合いがつかない場合、「調停(=話し合い)」は不成立となりますが、「審判(=裁判所が判断を行う)」という手続に移り、裁判所が、「非親権者を監護者として指定すべきかどうか」の判断を行います。
この場合の判断基準は、親権者変更の場合とあまり変わりません。
どちらの場合も、「子供の利益」を一番に考えます。
4 親権者が再婚し、再婚相手と子供が養子縁組をした場合は、親権者変更ができない
親権者が再婚し、再婚相手と子供が養子縁組をした場合、離婚時に非親権者となった親は、親権者変更の申立を行うことはできなくなります。
以下のような場合です。
→母(Y)が別の男性(A)と再婚
→子供とAが養子縁組
何が起きても、Xが子供の親であることに変わりはありません。
しかし、XからY及びAに対して「親権者変更」の申立を行うことは、できなくなってしまいます。
なお、子供が虐待されているなど、このまま親権者に子供を任せておけない事情がある場合、親権者変更よりもさらにハードルの高い手続ではありますが、「親権停止」、「親権喪失」を家庭裁判所に申し立てることは可能です。
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